リウマチ膠原病 論文抄読会

リウマチ膠原病に関する論文を読んでいきます。主に知識量up目的です。初学者ですので間違いがありましたらコメントで教えて頂けると有難いです。

強皮症におけるTCZの効果について phase3 (focuSSced study)

Tocilizumab in systemic sclerosis: a randomised, doubleblind, placebo-controlled, phase 3 trial   

Lancet Respir Med 2020 Oct;8(10):963-974.

https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30318-0/fulltext

 

全身性強皮症は有効な治療法が確立されていない膠原病の一つです。肺病変や皮膚硬化がどんどん進んでいく患者さんを診るたびに、なんとか出来ないのか、今出来る治療は何なのかと頭を悩ませる先生方も多いかと思います。少し前にSSc-ILDに対してのニンテダニブの使用が対象となりましたが、今回の論文はIL-6受容体阻害薬であるTCZの効果を検討したものです。

IL-6は炎症性サイトカインであり、SScにおいても病状が進行していく過程で重要な働きをしていると考えられています。SSc患者の血清中IL-6レベルを健常人血清と比較したところ、SSc患者の血清ではIL-6が検出されたが健常人では検出されなかったという報告があります。しかしすべてのSSc患者でIL-6が検出されるわけではなく、病初期のdsSSc患者で血清IL-6レベルが高かったと報告されています。したがってすべてのSSc患者で高いわけではなく、比較的早期の病態形勢に関与している可能性があるかもしれません。

(リウマチ科 第63巻 第5号 p550-551)

多くの膠原病とは違い線維化が問題である強皮症に、TCZがどれほど効果を発揮したのか、今後有効な治療となり得るのか、focuSSced studyを読んでみました。

 

Introduction:全身性硬化症はまれで重篤な疾患であり、全身性硬化症と診断された患者の最大60%が原疾患が原因で死亡する。 間質性肺疾患などの肺合併症が主な死亡原因であり、強制肺活量(FVC)の低下は、全身性硬化症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)患者の死亡率の増加と関連している。

現状ではSSc-ILDの治療は、臓器合併症の管理に限定されている。

IL-6の血中濃度は全身性硬化症の患者で上昇しており、皮膚の線維化とSSc-ILDの発症に関連している。

先に行われた研究(faSScinate試験)ではトシリズマブを用いたIL-6受容体阻害によるIL-6のシグナル抑制は皮膚の線維化の程度を減少させる可能性があることが示唆された。したがって、トシリズマブとプラセボのmRSSの変化に対する効果、副次的評価項目として肺機能への影響を評価するために、第3相ランダム化比較試験(focuSSced試験)が実施された。

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☆faSScinate試験はこの研究に先立って行われた強皮症に対するTCZの効果を検討したphase2の試験です。TCZ群はTCZ:162mg sc/wを投与、control群は48週までプラセボ、49-96週目まではTCZの投与を受け、2群を比較しました。(48週以降はopen labelです)

 

・皮膚硬化に関しては48WにおけるベースラインからのmRSSの変化はプラセボ群で-3.1[6.3 (-5.4 to -0.9)]、TCZ群で-5.6[9.1(-8.9 to -2.4)]、96WにおけるベースラインからのmRSSの変化はプラセボ→TCZ群で-9.4[5.6 (-8.9 to -2.4)]、TCZ継続群で-9.1[8.7(-12.5 to -5.6)]であり、TCZ使用でmRSSの改善を認めました。

 

・%pFVCに関しては46Wにおいてプラセボ群83%、TCZ群54%に%pFVCの減少を認めましたが、96Wではcontrol群(プラセボ→TCZ群)で42%、TCZ群で46%と%pFVCが減少した患者の割合の減少を認めました。96Wにおける減少例はプラセボ→TCZ群で10/24 (42%)、TCZ継続群で12/26 (46%) でした。

 

皮膚硬化についてはTCZ群で優位性を示しましたが有意差はついていません。%qFVCの低下に関してはTCZ群で有意差をもって効果が出たとされています。

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Methods

Study design:ヨーロッパ、北アメリカ、ラテンアメリカ、および日本の20か国(診療所、研究室、病院など)75か所で実施された多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第3相試験。

Participants:2013年のACR/EULAR 全身性硬化症分類基準を満たす成人で、①レイノー現象以外の症状が出現してから60ヶ月以下、②mRSS:10-35 units、③急性期炎症反応が上昇している(次の少なくとも1つ:CRP≥6mg/ L、ESR≥28mm/ h、または血小板≥330×10⁹/ L)人が適当であると判断された。

またスクリーニング時に④罹病期間が18ヶ月以下、⑤mRSSが少なくとも3units増加するか、新しい部位で2units増加する、もしくは過去6ヶ月以内に新しい領域が2カ所障害されること、⑥少なくとも1カ所で腱摩擦音を聴取すること

と④~⑥で定義される疾患活動性のうち少なくとも一つを有していることが必要であった。

FVC%予測値が55%以下、またはDLCO45%以下の患者は除外された。

 

Randomaisation and masking:前半の48週間は二重盲検下で162 mgTCZまたはプラセボの毎週の皮下注射、後半48週間は非盲検下でTCZ投与を受けるように1:1の比率でランダムに割り当てられた。ランダム化は、スクリーニング時の血清IL-6レベル(<10または≥10pg/ mL)によって層別化された。これはphase2 studyのデータの分析において、IL-6レベルが低いとmRSSのベースラインからの変化に良い結果が出たからである。

 

Procedures:mRSSとFVCは、baselineと8、16、24、36、および48週目に評価された。primary objectiveは48週目のmRSSであり、48週目の肺機能はsecondary objectiveであた。 HAQ-DIは、ベースラインと8、16、24、36、および48週目に評価された。Patient’s and physician’s global assessments、SHAQ、SGRQ、FACIT-fatigueは、ベースラインと8、16、24、および48週目に評価された。
DLCOは各病院・研究所の機器を使用して測定されました。HRCTはすべての参加者に対してベースラインと48週目に施行された。
免疫調節薬は%FVC予測値の低下があった患者は16週目から、また皮膚肥厚や他の全身性硬化症による合併症が悪化した患者については24週目から投薬を追加出来ることとした。

 

Outcomes

Primary endpoint:mRSSのベースラインから48週までの変化

Secondary endpoint

・FVC%予測値のベースラインから48週までの分布の変化

・mRSSが(≥20%、≥40%、および≥60%)改善した患者の割合の違い

・治療失敗までの期間(治療開始から死亡までの時間、FVC%予測値> 10%の低下、mRSSの相対的増加が> 20%、およびmRSSの増加が5ポイント以上、または全身性硬化症に関連する重篤な合併症の発生 と定義)

・健康評価質問票-障害指数

・patient global assessment and physician global assessment

Exploratory endpoint

・FVC実測値・FVC%予測値が10%以上低下した患者の割合

・24週目のFVCの変化、DLCOの変化

・48週目でDLCOが少なくとも15%減少している患者の割合

・48週目のHRCTで最も障害されている肺葉の線維化の程度(QLF-LM)のベースラインからの変化

・the American College of Rheumatology Composite Response Index in Systemic Sclerosis(ACR-CRISS)

・ベースラインで全身性硬化症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)をもつ患者には追加分析が行われた

・全身性硬化症の診断アルゴリズムを用いて、SSc-ILDをすりガラス状陰影、または肺底部優位の肺線維症、あるいはその両方の存在と定義した。

・QLF-WL/QILD-WLは事後分析された。

*QLF-LM:HRCT of quantitative lung fibrosis -most affected lobe

*QLF-WL:HRCT of quantitative lung fibrosis -whole lung

*QILD-WL:HRCT of quantitative linterstitial lung  disease-whole lung

 

Results

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trail profile

2015年11月20日~2017年2月14日までの間に343人をスクリーニングし、そのうち131人(38%)が不適格だった。 したがって212人が採用され、ランダムに割り当てられた。107人は毎週皮下プラセボを投与され、105人はTCZ:162mgを投与された。
プラセボ群の参加者107人中93人(87%)およびTCZ群の参加者105人中95人(90%)が48週間の評価を完了した(Figure.1) 。

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参加者のほとんどは女性、罹病期間の中央値は2年未満であり、皮膚病変は中等度から重度、ベースラインの平均mRSSはプラセボ群で20.4、TCZ群で20.3だった。210人の参加者のうち136人(65%)にHRCTでSSc-ILDを認めた。

48週目までにプラセボ群の22/106人(21%)、およびTCZ群の9/104人(9%)で免疫調整療法が開始された。プラセボ群の14/22人(64%)、TCZ群の4/9人(44%)は、36週以降に免疫調節療法を開始されていた。

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TCZ群とプラセボ群のmRSSのベースラインから48週目の変化というprimary endpointは満たされなかったが、TCZで治療された患者は48週目に皮膚硬化症が数値的に大幅に減少した。mRSSのベースラインから48週までのLSM(the least square mean)の変化は、プラセボ群で–4.4、TCZ群で–6.1だった。

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FVC%予測値のベースラインから48週目のLSMの変化は、プラセボ群で–4.6、TCZ群で–0.4であり(figure 3C, table 3)、似たような変化が絶対的LSMの変化でも見られた(table 3)。

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治療失敗までの時間を分析したKaplan-Meire分析(key secondary endpoint)は、未調整ではTCZ群がプラセボ群より良い成績であったが(ハザード比0・58、95%CI 0・34–0・98)、baselineに合わせて調整した場合、この所見は再現されなかった(HR 0・63、95%CI 0・37–1・06; nominal p = 0・08、figure4)。

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48週間の追跡期間中、ほとんどの患者に少なくとも1つの有害事象が発生した(Table 4)。
プラセボ群の53/106人中(50%)、TCZ群の参加者54/104人中54 (52%)が感染症を発症し、最も多い有害事象であった。TCZ群の13/104人(13%)で14個の、プラセボ群の18/106人(17%)で30個の重篤な有害事象が報告された。

QLF-LM、およびQLF-WLとQILD-WLの事後分析では、TCZ群の肺線維症の数値的改善を示した(table3、figure3D )。また SSc-ILD患者のうちプラセボ群の14/56人(25%)、およびTCZ群の5/59人のうち(9%)が48週目までに少なくとも10%のFVCの絶対的な低下を示した(figure3B)。

 

Disucussion:primary endpointであるmRSSの改善は今回の研究では達成できなかった(TCZ群とプラセボ群で48週間後の皮膚の厚さに差がなかった)。ただしsecondary endpointであるFVCの変化に関して言うと、第2相faSScinate試験の結果と同様に、TCZ群の肺機能の安定化を示唆していた。HRCTの結果は画像上明らかな肺線維症におけるTCZの抗線維化効果を裏付けている。

進行の推定予測因子には、びまん性皮膚硬化型、抗Scl-70(抗トポイソメラーゼ)抗体陽性、急性期反応物質上昇、および民族性が含まれる。

FVC%のベースラインからの変化の分布におけるシフト(figure3 A,B)が、プラセボよりもTCZで治療された参加者で少なくとも10%減少したという結果は、トシリズマブが肺機能を維持する可能性があることを示唆している。

第2相faSScinate試験でのTCZ群とプラセボ群のFVCの差は120 mL、第3相focuSSced試験で167 mLだった。

focuSSced試験の参加者は、皮膚病変の悪化と急性期反応物の上昇を理由に選ばれた。したがって、ほとんどの人の間質性肺疾患は軽度~中等度であった。

QLF-LMの変化は、強皮症性肺疾患の研究でシクロホスファミドを用いた際に報告された–2・6%と比較して、今回の研究でのTCZ治療では1・4%だった。

 

focuSSced試験には長所と短所がある。

mRSSの変化はTCZ群とプラセボ群で1.7単位の違いが観察されたが、治療効果だけでなく全身性硬化症の不均一性やプラセボ効果を反映している可能性があり、統計的な有意差もつかなかった。secondary endpointはFVCも含めて、統計学的な有意差は認めなかった。

ただしFVCへの影響は、臨床的に意味のある影響を示しており、今後のさらなる調査が必要となる。

 

(*全訳ではありません。)

有効性がある可能性は示したものの、有意差を持って上回るような結果は出ませんでした。今後積極的に使っていこうと思えるような結果ではありませんが、患者さんによってはかなりのスピードで間質性肺炎や皮膚硬化が進行する方も居ますので、これまでに報告されている他の治療が有効でない場合、検討してもいいのかもしれません。



 

HTLV-1陽性関節リウマチ患者の治療について

HTLV-1は、1980年にGallo R.博士らにより単離・報告された初めての病原性レトロウイルスです。全国のHTLV-1キャリアの実態は1990年に120万人前後と推定されていましたが、それ以降調査はなされておらず、現在の実態は不明です。

国立感染研急所のHPに概要がまとめられています。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/325-htlv-1-gintro.html

 

HTLV-1キャリアがATLを発症するリスクは男性で6-7%、女性で2-3%と言われているようです。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30938551/)

 

キャリアの人数は決して少なくないことから、日常臨床でHTLV-1陽性患者さんの関節リウマチ治療にあたることがあるのですが、生物学的製剤の選択や臓器合併症の評価に悩むこともしばしばあります。HTLV-1陽性関節リウマチ患者診療の手引き(Q&A)というものがありますが、2018年に更新された第2版でも、「HTLV-1感染を理由に使用できない薬剤はありません」という文言は変わっていません。(P19)

https://www.ryumachi-jp.com/pdf/HTLV-1.pdf

 

しかし以前血液内科の先生に相談したところ、IL-6阻害薬でぶどう膜炎やATLが増悪した報告があるので、IL-6阻害薬は避けたほうがいいかもしれないというアドバイスを頂きました。Pubmedで調べてみると以下のような報告があります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5312999/

→HUは寛解しており、HAM/TSPはコントロール出来ている状態であった66歳の女性がRAを発症したためtocilizumabを投与したところ、HU・HAM/TSPの病勢が増悪した。tocilizumabは中止しabataceptに変更したが、HU・HAM/TSPの病勢は改善せず、PSL増量による治療を要したという報告です。

他にもいくつかIL-6阻害薬が関与したかもしれないという報告が散見されます。

 

やはりIL-6阻害薬はHUやHAMなどHTLV-1関連の病態を悪化させたり、発症のリスク因子となるのでしょうか。

2020/6のPNASに熊本大学病院感染免疫診療部の先生方が以下のような論文を発表しています。

https://www.pnas.org/content/117/24/13740

(ニュースサイトで簡略化して説明されています)

(http://www.qlifepro.com/news/20200604/htlv-1-atl.html)

→炎症性サイトカインであるIL-6が炎症を介して発がんを促進することが知られているため、研究を始めた当初はHBZ-TgおよびATLにおいてもIL-6が発がんを促進している可能性を検討されました。しかしIL-6を産生できないHBZ-Tgマウス(HBZ-Tg/IL-6ノックアウトマウス)を作成し解析を行ったところ、炎症とリンパ腫の有意な増加を認め、IL-6はHBZの病原性に対しては抑制する作用を持っていることが判明したということです。

 

Il-6阻害薬だけでなくTNF阻害薬やabataceptでRAを治療中にATLを発症したという報告もありました。HTLV-1陽性細胞はCD4陽性T細胞に感染するため、T細胞活性化抑制に働くabataceptはリスクが低いかと考えていたのですが、そう単純な話ではないですよね。

いずれの報告でも自然経過でATLを発症したのか、免疫抑制治療の結果発症したのか区別することはできませんが、熊本大学からの報告を参考にするとIL-6阻害薬は避けたほうがいいのかもしれません。

 

これまでHTLV-1とRAに関して報告された論文の系統的レビューがあります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7025999/

open accessですので、ご覧ください。

掌蹠膿疱症の臨床像・診断・治療

掌蹠膿疱症性関節炎の診断・治療

 

 https://www.dovepress.com/diagnosis-screening-and-treatment-of-patients-with-palmoplantar-pustul-peer-reviewed-article-CCID 

 

個人的にPPPは膿疱症性乾癬に合併した関節炎やSAPHO症候群との区別がかなり曖昧です。掌蹠膿疱症に関してまとめられた論文を読んでみました。

○概要

掌蹠膿疱症(PAO)とは手掌・足底に無菌性膿疱が繰り返し出来る、慢性炎症性疾患の難治性皮膚疾患である。胸鎖関節などの関節炎(掌蹠膿疱症性関節炎:PPP)を起こすこともある。

原因はよく分かっていないが、発症原因は明らかになっていないが、角化亢進などによって引き起こされる無菌性膿疱と臨床的には定義されている。

悪化因子としては、病巣感染(齲歯 歯周炎 扁桃炎 副鼻腔炎など)や金属アレルギー、喫煙などがあるといわれている。

乾癬の亜型との考えもあるが、独立した疾患であるとも考えられておりはっきりしない。

 

○疫学

稀な疾患であり有病率は0.01-0.05%と推定されている。日本のデータベースでは65.4%、スウェーデンの研究では94%が女性であったと報告されている。50-60歳代に起こりやすく、平均発症年齢は40-58歳くらいである。

 

掌蹠膿疱症(PPP)と膿疱症性乾癬(PPPP)の違い

1930年初めてBarberが、von Zumbusch 膿疱性乾癬と区別して、PPPを乾癬のサブタイプであり、限局性乾癬であると定義した。しかし今日に至るまでPPPの疾病分類額的な立ち位置は不明であり、尋常性乾癬のスペクトラムとされたり、独立した疾患であると考えられたりしており、議論は未だ進行中である。

(2007年のthe Inernational Psoriasis CounsilではPPPは独立した疾患であると再分類されている。)

 

PPP:通常両側対称性に起こり、病変は手掌や足底に限局する。体の他の部位には起こらないという点でPPPPと区別される。(acrosyringium(:エクリン線の終末管)が炎症の標的である可能性も考えられており、この点でもPPPPと区別出来るかもしれない。)

PPPP:手掌・足底にも病変は起きるが、ほとんどの場合身体の他の領域にも同時に起きる。

 

→したがって、病変が手掌・足底に限局していればPPP、身体の他の領域にも存在する場合や乾癬の家族歴がある場合にPPPPと判断されている。

 

発症年齢、罹病期間、乾癬の家族歴、随伴性関節炎、および心血管疾患に関しての観察研究では、PPPとPPPPの間に有意差は報告されていない。 一方、女性、喫煙、および自己免疫性甲状腺疾患はPPPと関連しているようだ。 事実、喫煙との関連は強く、PPP患者ではニコチンがエクリン腺に分泌されて炎症を促進し、局所反応を変化させると考えられている。

 

○病因

-IL-23/17について-

乾癬と同様に、PPPでも、TNF-α、IL-22、IL-17、IFN-γなどの炎症性サイトカインが増加する。 ただし、乾癬とPPPではサイトカイン産生に違いがある。 乾癬では、Th17リンパ球から分泌されるサイトカイン、たとえばIL-17、IL-12、IL-23が大量に産生されるが、PPPではIL-23およびIL-12の付随的な上昇なしにIL-17が増加する。したがって、PPPではIL-17が重要な役割を果たしている。

表皮でのIL-17の上昇はケラチノサイトからのIL-6産生を誘発し、単球や好中球を活性化し、顆粒球を表皮へ誘引し、膿疱形成を促進する。IL-6は膿疱形成に重要な役割を果たしていると言える。

 

-IL-36について-

IL-36は乾癬の病因に強く関与している。IL-36はPPPにおいて重要な役割を果たすTh-17を発現させる樹状細胞を活性化させることにより、効果を発揮すると考えられている。

Th17細胞によるIL-17産生もIL-36発現を増加させ、フィードバックを作り出す。

 

○症状

PPPは手掌・足底の無菌性膿疱として現れる(手掌・足底の側面に出来ることもある)。慢性的・周期的で、通常は対称的である。

エクリン汗腺が豊富な領域に病変が起きやすいと考えられている。 無菌性膿疱は通常数日以内に乾燥し、落屑と線状の亀裂が観察される。あるケースシリーズでは、病変が手掌のみなのは15.4%、足底のみなのは17.9%で、66.7%が手掌・足底両方に病変を有していた。

病変は通常、かゆみや灼熱感を引き起こし、生活の質に悪影響を及ぼす。

爪病変は約42.1%に存在する可能性がある(乾癬に見られるよりも少ない)。

また、25.6%で骨関節障害を起こすこともある。

 

○誘発因子

喫煙:喫煙は最もよく知られている誘発因子である。PPP患者の喫煙率は高く、現在喫煙している、あるいは過去に喫煙していた患者は42〜100%に上る。 現在喫煙している患者がPPPを発症する相対リスクは、非喫煙者と比較して74倍高い。禁煙後に病変が退縮したという報告も多数存在する。

 

感染:尋常性乾癬の誘発因子としてよく知られている感染症でも、PPPを悪化させる可能性がある。多くの症例報告でPPPと扁桃炎、歯原性感染症、慢性副鼻腔炎との関連が報告されている。 実際に、PPP患者の半数以上で歯科疾患を治療することにより臨床的改善が観察されている。

扁桃腺とPPPの関連が調査され、扁桃摘出術によりPPP患者116人中109人で改善が認められたという報告もある。

 ストレス:PPPを含む特定の皮膚疾患では、心理的要因、特にストレスが、その病因において重要な役割を果たしている可能性がある。PPP患者の約90%でストレスに関連して皮膚病変が悪化したという報告がこれを示唆している。

 

アレルギー:臨床経過の観察に基づくと、接触皮膚炎はPPPで重要な役割を果たす可能性がある。接触皮膚炎は尋常性乾癬と比較して、PPP患者でより有病率が高い(25.2%vs 11%)。 また、PPP患者の中では女性の方が男性よりもパッチテストの陽性率が有意に高いことも示されている。

PPPの接触ア皮膚炎に関する最近の系統的レビューでは、患者の23.3%がパッチテストで陽性であり、金属が最も一般的なアレルギー物質であることが示された。 また、58.3%のケースで、アレルゲンの回避が皮膚の改善を示した。

最も一般的なアレルゲンは、ニッケル、バルサム(樹脂)、ゴム添加剤、水銀、クロムである。したがって治療に反応しないPPP患者にパッチテストを実施することは有用である。

 

薬剤:PPPは主に成人と高齢者に影響を与える病気であり、多くの患者で他の慢性疾患が併存している。症例対照研究では患者の30%がβ-blocker、ACE阻害剤またはCa blocker、30%がホルモン療法、15%が抗うつ薬、13%が糖尿病薬の投薬を受けていた。しかし、これらの薬剤とPPPの間には明確な関連は認められていない。

一方で、生物学的製剤はPPPの原因になり得ると考えられている。 TNF阻害剤(ADA、IFX、ETN)は乾癬の治療に効果的だが、副作用として乾癬病変の形成につながる可能性がある。

 

○併存疾患  Table2

 

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○治療

PPPの治療アプローチには局所療法と全身療法があるが確率された治療法はなく、管理が難しい疾患である。

手掌・足底に存在する角質層は、局所治療薬が作用するにあたって障壁となり得る。

 

局所療法:割愛します

 

-全身療法-

TNF阻害薬: おそらく炎症のメカニズムが違うために、乾癬とPPPではTNF阻害薬(ADA、IFX、ETN)の臨床効果には違いがある。

PPPに対してのTNF阻害剤の効果を評価する唯一の研究は、わずか15人の患者でETNを使用して行われた。 24週目の時点でETN群はプラセボ群に比較して、PPPASIスコアの有意な減少を示しましたが(p=0.038)、研究のエンドポイントであった12週目では差は認められなかった。

非喫煙者のうち3/3人がエタネルセプト療法で臨床的改善を達成し、喫煙継続者の3/7人のみが改善したことを著者が指摘しているように、喫煙が治療効果に大きく影響した可能性がある。

 

IL-12/23 阻害薬(ustekinumab;ステラーラ):

PPP患者では相反する結果がいくつか報告されている。TNF阻害薬で治療されているが効果不十分な場合に、効果があるかもしれない。

Bissonnette らは、PPP患者を対象としたustekinumab 45 mgとプラセボを比較する前向き無作為化対照試験を実施したが、統計学的な有意差は認めなかった。

別の研究によれば、Au らは、ustekinumab 90 mg投与の患者で45 mgと比較してより高い有効性を示した。ustekinumab 90 mg投与を受けた患者の67%(9人の被験者のうち6人)は、45 mgの投与を受けた被験者の9%(11人のうちの1人)に対して臨床的改善を示した(p = 0.02)。

見られる適度な結果は、PPPではIL-17とは対照的に、IL-23の発現が低いことからこの結果を説明出来ると考えられる。

 

IL-17阻害薬:いくつかの研究では、IL-17がPPPの炎症メカニズムで中心的な役割を果たす可能性があると示されている。これは、IL-17阻害薬がTNF阻害薬、および抗IL12 / 23阻害薬よりも効果的な治療選択肢となる可能性があることを意味する。

IL-17阻害薬のうち、Secukinumab(コセンティクス)とBrodalumab(ルミセフ)はPPP患者を対象に研究されている。

2PRECISE試験では、Secukinumab 300 mgおよび150 mgをプラセボと比較した。 52週時点で、Secukinumab300mg群の患者の41.8%がPPPASI-75を達成した。

4人の患者にBrodalumabを投与したケースシリーズでは有効性は認められていない。PPPに対するBrodalumabの有効性に関する第III相プラセボ対照試験が進行中である。

 

IL-23阻害薬(Guselkumab;トレムフィア)

IL-23阻害薬(Guselkumab)

IL-23のp19サブユニットに結合する完全ヒト型モノクローナル抗体であるGuselkumabは、PPP患者を対象に研究が行われている。しかし、16週目にグセルクマブは臨床的有効性を示し、

応答は2週目にのみ開始されました。Teruiらは49人のPPP患者を対象とした二重盲検ランダム化プラセボ対照試験の結果を発表した。Guselkumabを投与した患者では16週目に臨床的改善を示したが、効果は2週目以降に表れたと報告している。

159人の患者を対象としたGuselkumabの安全性と有効性に関する第III相多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果が最近発表された。Guselkumab 100 mgと200 mgを投与すると、16週目におけるPPPASIスコアの大幅な改善を認めた。しかし統計学的に有意差を認めたのは100mg群であった(p <0.001)。PPSIおよびPPPASIスコアの低下は、52週までに100mg群、200 mg群どちらのグループでも観察された。PPPASI-75の改善は52週目で、100 mg群の55.6%、200 mg群の59.6%で認めた。

トレムフィアは現在日本において掌蹠膿疱症に対して保険適応をとっている唯一の生物学的製剤である。

 

PDE-4阻害薬(Apremilast)

Apremilastは乾癬に対する経口の選択的PDE-4阻害薬である。

PDE-4を阻害することにより、IFN-c、TNF-a、IL-12、IL-17、IL-23などの乾癬の病因となるいくつかの炎症性サイトカインの産生をブロックする。フェーズ3 ESTEEM [乾癬におけるアプレミラストの効果を評価する有効性および安全性試験]とその他2つの試験では、乾癬患者で中程度の臨床効果しか示さなかったが、爪乾癬、頭皮乾癬、および掌蹠膿疱症などの治療困難な乾癬のサブタイプで効果を示した。幅広くサイトカインを抑制するため、PPPにも有効な治療選択肢となる可能性がある。

また有害事象は軽微なものが多く、臨床検査でのモニタリングが不要であることも利点であると考えらえる。

2つの後ろ向き研究(合計12例)は、アプレミラストをustekinumab、MTX、またはixekizumabと組み合わせて使用​​し、改善を得たと報告している。

 

結論:PPPは乾癬には存在しない遺伝的、組織病理学的および臨床的特徴を持っている。例えばPSORS1やPSORS2といった複数の遺伝子座が乾癬と関連していると報告されているが、PPP患者には見られない。またIL-36の働きを制御するIL-36受容体アンタゴニストをコードするIL36RN遺伝子の変異や、CARD14遺伝子変異が掌蹠膿疱症患者の治療反応に影響を与える可能性があると考えられている。

ただし、乾癬とPPPはどちらもIFN-γとTNF-αに加えて、IL-17が病因となっている。

多くの治療アプローチが試みられてきたが、ゴールドスタンダードはない。

喫煙を継続している患者では、禁煙を試みるのも一手だろう。軽度であれば局所療法を、中等度~重度のPPPの患者では、光線療法などが有効な場合がある。難治性の患者またはこれらの治療法の使用が禁忌である患者は、新しい治療法を検討するといいだろう。

 

日本では掌蹠膿疱症は乾癬の亜型と考えられているようですね。掌蹠膿疱症の病名では特定疾患の申請はできませんが、膿疱症性乾癬で取得されていることが多いのでしょうか。掌蹠膿疱症、乾癬ともに関節炎を来し得るのですが、この論文を参考にするとIL-17阻害薬が有効なように思われますね。恥ずかしながら甲状腺疾患の合併に関しては知りませんでした。今後留意しておこうと思います。

JAK阻害薬

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JAK阻害薬について簡単にまとめました。

現在ギリアドが申請中のフィルゴチニブは日本ではエーザイと提携するようです。

ウパダシチニブと同じJAK1阻害薬のようですが、使い分けはどのようになるのでしょうか。

Comparative effectiveness of first-line tumour necrosis factor inhibitor versus non-tumour necrosis factor inhibitor biologics and targeted synthetic agents in patients with rheumatoid arthritis: results from a large US registry study

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https://ard.bmj.com/content/annrheumdis/early/2020/07/20/annrheumdis-2020-217209.full.pdf


Background
:RAの治療ではこれまでの治療歴や病期に合わせたT to T治療が推奨されている。csDMARDsにグルココルチコイドを併用し、効果不十分であればbDMARDsやJAK阻害薬への変更や追加が考慮される。現在のガイドラインではcsDMARDsに続く治療法の選択について述べておらず、evidenceに基づくTNF阻害薬/非TNF阻害薬の選択の優先度についても述べていない。

Objective:TNF阻害薬、あるいは非TNF阻害薬で治療された患者のBaselineとoutcomeを比較検討すること。

Study design:2001/10/1-2018/1/31にUS healthcare registryに登録されている患者を前向きに観察した。18歳以上でCDAI>2.8、first lineでcsDMARDsを使用しており、観察期間中にTNF阻害薬or非TNF阻害薬を使用した患者を登録した。

主要なoutcomeはCDAIスコアであり、

(1)ベースラインで中~高疾患活動性をもつ患者の低疾患活動性(CDAIスコア≤10)の達成

(2)、ベースラインの疾患活動性が低い、中程度、または高い患者の間での寛解の達成(CDAIスコア≤2.8)

(3)CDAIの変化量(ベースラインCDAIスコアは2.8〜10.0なら≧2、ベースラインCDAIスコアが10.1〜22.0の場合は≥6、ベースラインCDAIスコアが> 22の場合は≥11)

の3つを評価した。

secondary outcomeはmDAS-28が含まれ、貧血(男性では13.2g / L未満、女性では11.5g / L未満と定義)も、RAによる炎症との関連があり、いくつかの治療によって悪化したため含まれた。

patients repoted outcome(PROs)にはPROには、HAQ-DI、EQ-5D score、睡眠障害アンケート(yes/no)、不安(yes/no)、朝のこわばり(存在および持続時間) と疲労(VAS 0〜100)が含まれた。

Results:Corrona RA Register内で、18歳以上の46 414人の患者をrecruitした。 そのうち、7476人の患者は適格な薬物療法で開始されており、bDMARD未経験およびtsDMARD未経験であった。 figure1の通りに患者を除外し、4816人の患者をenrollした。TNFiによる治療で開始されたn = 4186と非TNFiによる治療で開始されたn = 630が含まれた。

拡張期血圧、総コレステロール、低密度リポタンパク質コレステロール、高密度リポタンパク質コレステロール、トリグリセリドなどはデータが10%以上欠けていたため除外し、傾向スコアを一致させたところ、2372人および593人の患者は、それぞれTNFi群は2372人、非TNFi群は593人となった。

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Baseline characteristics
:詳細はtable1に記載

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Outcomes:TNFi群、非TNFi群においてLDAの達成、寛解の達成(CDAIとmDAS28に従って定義)などにおいて、グループの間に統計的有意差は観察されなかった(figure2)。貧血患者の割合はマッチング前とマッチング後で有意差はなかったが、TNFiは、非TNFiと比較すると、貧血の粗発生率が低かった (p = 0.03)(figure3/table2)。CDAI、HAQ-DI、朝のこわばりや倦怠感といった項目に差はなかった(table2)。

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Conclusions:firstlineにTNF阻害薬を選択するか、非TNF阻害薬を選択するかで結果は大きく変わらなかった。患者背景に併せて選択すべきだろう。


 

セクキヌマブとアダリムマブのPsAに対する効果(EXCEED study)

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Lancet 2020;395:1496-505

 

Introduction:乾癬性関節炎(PsA)の臨床像は不均一であり、関節炎・脊椎炎・腱付着部炎、皮膚および爪の炎症などの皮膚・筋骨格系の症状を引き起こす。NSAIDsはPsA治療のfirst choiceであるが、心血管イベントや消化器障害を引き起こす可能性がある。皮膚病変や筋骨格系の炎症を抑えるためMTXなどのcsDMARDsが使用されている。

生物学的製剤(bDMARDs)はcsDMARDsでは効果不十分な患者に使用されています。ADA(adalimumab)は単剤/もしくはMTX併用でPsAに対して幅広く使用されている。SCK(secukinumab)はIL-17A阻害薬で、PsAの症状やX線での骨病変の進行、身体機能などを改善させることが分かっている。中等度~重度のPsAの患者において、ETNやUSTよりも優れた効果を示した。

EULARは治療アルゴリズムを提唱しているのに対し、GRAPPAは別の臨床アプローチを提案している。csDMARDsの効果が不十分な場合にどのbDMARDsを使用すべきかに関する臨床試験は少ない。

IL-17A阻害薬中等度~重症の乾癬患者の皮膚症状・乾癬性関節炎の患者に対する有効性が有効性が示されている。しかし筋骨格系症状に対する薬剤の効果を比較したデータが欠けている。

EXCEED studyはbDMARDsのfirst choiceとして、SCK:300mg単剤療法がADA:40mg単剤療法に比べて優れているかを比較したものである。ACR20の達成率をエンドポイントとして比較した。

Methods

Study design and participants:EXCEED studyは、ランダム化・二重盲検試験で、実薬対照試験、phase 3b、多施設(26か国で168ヶ所)、52週間の2グループ比較研究である。乾癬性関節炎および乾癬に対して生物学的製剤の投与を受けたことがない患者、およびcsDMARDに対して不耐性または不十分な反応を示した患者に対するSCK単剤療法とADA単剤療法を施行した。

18歳以上、PsA criteriaを満たす、活動性のPsA(腫脹関節3つ以上・圧痛関節3つ以上)、少なくとも1つ以上で2cm以上の乾癬のプラーク、爪病変)があり、bio使用歴がなく、csDMARDsに耐性/忍容性がない患者を選んだ。

MTXを含むcsDMARDsは4週間前に中止、レフルノミドは8週間前に中止した。ステロイドを併用している場合はPSLもしくはPSL換算で10mg/day以下を少なくとも2週間以上使用している患者を選定した。

妊娠、感染症または悪性腫瘍、生物学的製剤またはオピオイドの使用歴、経口または局所のレチノイド継続使用、光線化学療法、光線療法、または局所治療を受けている患者を除外した。

Randomisation amd masking:8週間のスクリーニング期間後、ADA群とSCK群に割り付けた。

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Procedure:SCK:300mgは0,2,3,4週、以降4週ごとに48週まで投与した。ADA:40mgは2週ごとに50週まで投与した。主要な有効性の評価はスクリーニングの時点と、baseline、2週目、4週目、以降4週ごとに52週まで行われた。337853人(40%)がプロトコルを逸脱していた。そのうち172人はSCK群で、165人はADA群であった。プトロコル逸脱の主な理由は使用が禁止されている薬剤を使用したことであった。

Outcomes:primary outcomeは52週目時点でのACR20達成率

secondary endpointはPASI90、ACR50達成率、HAQ-DIのbaselineからの変化、LEI criteriaに基づく腱付着部炎の改善とした。

exploratory endpointは52週目時点での筋骨格系や皮膚の評価を行った。ACR20とPASI100を組み合わせて評価し、PASI70/100の達成率、PASI score:3以下、ACR70達成率、SPARCC criteriaに基づく指炎や腱付着部炎の改善率、PASDASにおける低疾患活動性の達成率、DAPSAにおける低疾患活動性や寛解の達成率、HAQ-DIにおける超低疾患活動性の達成率などを評価した。

primary efficacy endpointはACR20達成率、50週または最後の診察までにADA/SCKの投与を終了できていること、MTXを含むcsDMARDsの使用を36週目以降やめられていること、と設定した。

Role of the funding source:この研究はノバルティスによる資金提供を受けている。

 

Results:試験は2017/3-2018/8まで行われた。Figure.1の通り426人がSCK群、427人がADA群に含まれた。試験を完遂したのは709/853(83%)であった。SCK群の61/426人(14%)、ADA群の101/427人(24%)が52週までに治療を中止された。中止の主な理由は有害事象、効果不十分などであった。baselineの患者構成はSCK群とADA群で類似していた。

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SCK群の357/426(84%)、ADA群の371/427(87%)が以前にMTXの投与を受けていた。primary endpointである、52週時点でのACR20の達成率はSCK群で67%、ADA群で62%とSCK群の優位性は示せなかった。

ACR50とPACI100を併せた評価では、SCK群の優位性が示された。PACI75/100、absolute PACI score≦3、低疾患活動性スコア、DAPSA、PASDASなども優位性を示した。

211/853人(25%)の患者が、体表面積の10%を超えるもしくはPACI≧10の乾癬を患っていた。治療に関連した有害事象はSCK群の患者330/426(77%)、ADA群の患者338/427(79%)人に発生した。

心血管イベントの副作用はSCK群で2人(1人は生活習慣病、心血管疾患のためステント挿入歴があり、もう1人は喫煙者であり、高血圧や心筋虚血の既往あり)発生した。ADA群では心不全のため入院を要した患者が1人居た。

IBDを発症した患者はSCK群で2人居た。大腸がんで死亡した症例がSCK群に1人居た。

 

Discussion:この研究では単剤投与だが、一般的にPsAの治療ではMTXが併用されることが多いので、結果を一般化するには限界がある。X線での骨病変の進行抑制に関しては評価していないが、今後評価すべきだろう。SCKは52週時点でのACR20の達成率に関してはADAと比較して優位性を示せなかったが、筋骨格系や皮膚病変のスコアを改善させ、高い臨床効果を提供した。

 

SCKが明らかに優位とまではいきませんでしたが、皮膚病変の改善率はやや上回っていました。

 

 

 

 

 

tocilizumabのリウマチ性多発筋痛症に対する効果

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4975852/pdf/annrheumdis-2015-208742.pdf

 

Introduntion:グルココルチコイド(GC)はPMRの治療に使われているが副作用が多い。GCの代替になる薬剤として、TCZの有効性を評価する。

PMR activity score(PMR-AS)は朝のこわばり、上肢挙上、PGA、VAS、CRP(ESRでの代用も可)の5つの項目からなる。PMR-AS<7を低疾患活動性、PMR-AS>17を高疾患活動性と定義している。

発症早期のPMRに対するTCZの有効性および安全性を検証するための、24週間、open-label、前向き縦断研究を施行した。

 

Study design:TCZはbase line、4週後、8週後の3回、8mg/kgで点滴投与された。primary end pointは12週目に評価された。12週目~24週目はPMR-AS≦10であれば0.15mg/kg/dayのPSL投与、それ以外であればPSL:0.3mg/kg/dayの投与を受けた。PMR-ASは4週間毎に評価され、≦10の場合は2週間毎にPSL:1mgずつ減量し、>10の場合は少~中等量増量され、すでに中等量投与されている場合は5mg増量された。

 

Setting and participants:患者はフランスの2つの大学病院でリクルートした。ChuangのPMR基準を満たしていた。過去12ヶ月以内にPMRを発症し、PMR-AS>10の疾患活動性で、PMRに対してGC治療が行われたことがない、もしくはPSL投与は受けていても1ヶ月以内で試験に参加する7日前には中止されていた。

年齢50-80歳、NSAIDsは参加2日前までに中止、ESR≧40mm/h、CRP≧10mg/dlであった。その他のリウマチ・膠原病疾患を疑う所見はなかった。

 

Data collection:毎診察時に患者はVASを記載し、36個のQOLに関するアンケート(SF36)に答えた。GCAを発症していないことを確認された。

B-モードエコー、肩・骨盤部のMRI、PET-CTはbase line、2週間後、12週間後に施行された。

 

Outcomes and followup

primary end point:12週目にPMR-AS<10の患者の割合

secondary end point:2,4,8,12,16,20,24週目のPMR-AS(CRP)とPMR-AS(ESR)の反応性の評価(CRPに対するTCZの反応を排除するためにESRでも評価)

 

Results

Patient characteristics:少なくとも1回のTCZ投与を受けた20人の患者(男:女=13:7)が含まれ、年齢の中央値は66.9歳(62.0〜72.5)、疾患期間の中央値は99日(67〜163)だった。 base line PMR-ASの中央値は36.65(30.45–43.85)だった。18人(90%)の患者は、肩こりと骨盤帯の痛み・朝のこわばりがあり、中央値は180.0(75.0–180.0)分でした。 全身症状は、発熱(2/20人)、> 5%の体重減少(3/20人)、および血清γ-GTPの上昇(9/20人)だった。 リウマチ因子陽性患者や末梢関節炎の患者はいなかった。

 

Efficacy

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すべての患者が12週目にはPMR-AS≦10を達成した。(検査値に比べてVASの低下はどれも緩やかですね。)

 

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PMR-AS≦10の患者は2週目には3人(15%)しかいなかったが、4週目には9人(45%)、8週目には13人(65%)と増加した。最初の12週間でrescue treatmentを必要とした患者は居なかった。(Morning stiffnessは割と順調に改善していますが、VASの改善は個人差が大きいようですね)

すべての患者は12週目に低用量PSL(0.15mg/kg/日)を開始された。 開始用量の中央値は12mg(9.0–12.5)だった。PSLの投与量は16、20、および24週目にプロトコルに従って減量した。 PMR-ASの中央値は12週目(4.50(3.2-6.8))から24週目(0.95(0.4-2.0))と大幅に改善した。 

フォローはPSLの投与が終了してから1年間継続し、24週目以降の中央値12ヶ月(12-17)行われた。2人はフォロー中に脱落した。24週目から6ヶ月後にPSLの投与を受けていたのは4人だった。フォロー終了時のPSL累積投与量は560mg(405-755.25)だった。PSL終了2ヶ月後に中等度の再燃をした人が1人居た。

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症状や血液検査値が改善したのとは対照的に画像検査ではあまり改善が見られなかった。PET-CT・MRIでわずかに改善を認めたものの、エコーでは改善を認めなかった。

 

Discussion:TCZは発症早期のPMRに単独療法として有効かもしれない。すべての患者は12週目までにprimary end pointを達成し、TCZ投与後は少量PSL投与しか必要としなかった。85%の患者は12週目までに低疾患活動性を達成した。secondary end pointもすべて改善した。TCZの効果は緩徐かもしれない。しかし最近行われたACR/EULAR の研究では125人のPMR患者をPSLのみで治療して、4週目までに完全な反応を示したのは71%に過ぎなかった。

この研究の限界はランダム化試験ではないこと、PMR-ASにCRPが含まれることである。

 

感想:PMRにTCZが有効であると数年前から言われていますが、どの時点で間隔延長・休薬するのかなど不明な点が多いですね。この論文ではPSL投与せずにTCZ開始されている症例もあるようですが、金銭的な問題を考えるとなかなか難しいかもしれません。ただし、PSLの副作用をなるべく回避したい症例では早期からの投与も考慮されるでしょう。