リウマチ膠原病 論文抄読会

リウマチ膠原病に関する論文を読んでいきます。主に知識量up目的です。初学者ですので間違いがありましたらコメントで教えて頂けると有難いです。

強皮症におけるTCZの効果について phase3 (focuSSced study)

Tocilizumab in systemic sclerosis: a randomised, doubleblind, placebo-controlled, phase 3 trial   

Lancet Respir Med 2020 Oct;8(10):963-974.

https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30318-0/fulltext

 

全身性強皮症は有効な治療法が確立されていない膠原病の一つです。肺病変や皮膚硬化がどんどん進んでいく患者さんを診るたびに、なんとか出来ないのか、今出来る治療は何なのかと頭を悩ませる先生方も多いかと思います。少し前にSSc-ILDに対してのニンテダニブの使用が対象となりましたが、今回の論文はIL-6受容体阻害薬であるTCZの効果を検討したものです。

IL-6は炎症性サイトカインであり、SScにおいても病状が進行していく過程で重要な働きをしていると考えられています。SSc患者の血清中IL-6レベルを健常人血清と比較したところ、SSc患者の血清ではIL-6が検出されたが健常人では検出されなかったという報告があります。しかしすべてのSSc患者でIL-6が検出されるわけではなく、病初期のdsSSc患者で血清IL-6レベルが高かったと報告されています。したがってすべてのSSc患者で高いわけではなく、比較的早期の病態形勢に関与している可能性があるかもしれません。

(リウマチ科 第63巻 第5号 p550-551)

多くの膠原病とは違い線維化が問題である強皮症に、TCZがどれほど効果を発揮したのか、今後有効な治療となり得るのか、focuSSced studyを読んでみました。

 

Introduction:全身性硬化症はまれで重篤な疾患であり、全身性硬化症と診断された患者の最大60%が原疾患が原因で死亡する。 間質性肺疾患などの肺合併症が主な死亡原因であり、強制肺活量(FVC)の低下は、全身性硬化症関連間質性肺疾患(SSc-ILD)患者の死亡率の増加と関連している。

現状ではSSc-ILDの治療は、臓器合併症の管理に限定されている。

IL-6の血中濃度は全身性硬化症の患者で上昇しており、皮膚の線維化とSSc-ILDの発症に関連している。

先に行われた研究(faSScinate試験)ではトシリズマブを用いたIL-6受容体阻害によるIL-6のシグナル抑制は皮膚の線維化の程度を減少させる可能性があることが示唆された。したがって、トシリズマブとプラセボのmRSSの変化に対する効果、副次的評価項目として肺機能への影響を評価するために、第3相ランダム化比較試験(focuSSced試験)が実施された。

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☆faSScinate試験はこの研究に先立って行われた強皮症に対するTCZの効果を検討したphase2の試験です。TCZ群はTCZ:162mg sc/wを投与、control群は48週までプラセボ、49-96週目まではTCZの投与を受け、2群を比較しました。(48週以降はopen labelです)

 

・皮膚硬化に関しては48WにおけるベースラインからのmRSSの変化はプラセボ群で-3.1[6.3 (-5.4 to -0.9)]、TCZ群で-5.6[9.1(-8.9 to -2.4)]、96WにおけるベースラインからのmRSSの変化はプラセボ→TCZ群で-9.4[5.6 (-8.9 to -2.4)]、TCZ継続群で-9.1[8.7(-12.5 to -5.6)]であり、TCZ使用でmRSSの改善を認めました。

 

・%pFVCに関しては46Wにおいてプラセボ群83%、TCZ群54%に%pFVCの減少を認めましたが、96Wではcontrol群(プラセボ→TCZ群)で42%、TCZ群で46%と%pFVCが減少した患者の割合の減少を認めました。96Wにおける減少例はプラセボ→TCZ群で10/24 (42%)、TCZ継続群で12/26 (46%) でした。

 

皮膚硬化についてはTCZ群で優位性を示しましたが有意差はついていません。%qFVCの低下に関してはTCZ群で有意差をもって効果が出たとされています。

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Methods

Study design:ヨーロッパ、北アメリカ、ラテンアメリカ、および日本の20か国(診療所、研究室、病院など)75か所で実施された多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第3相試験。

Participants:2013年のACR/EULAR 全身性硬化症分類基準を満たす成人で、①レイノー現象以外の症状が出現してから60ヶ月以下、②mRSS:10-35 units、③急性期炎症反応が上昇している(次の少なくとも1つ:CRP≥6mg/ L、ESR≥28mm/ h、または血小板≥330×10⁹/ L)人が適当であると判断された。

またスクリーニング時に④罹病期間が18ヶ月以下、⑤mRSSが少なくとも3units増加するか、新しい部位で2units増加する、もしくは過去6ヶ月以内に新しい領域が2カ所障害されること、⑥少なくとも1カ所で腱摩擦音を聴取すること

と④~⑥で定義される疾患活動性のうち少なくとも一つを有していることが必要であった。

FVC%予測値が55%以下、またはDLCO45%以下の患者は除外された。

 

Randomaisation and masking:前半の48週間は二重盲検下で162 mgTCZまたはプラセボの毎週の皮下注射、後半48週間は非盲検下でTCZ投与を受けるように1:1の比率でランダムに割り当てられた。ランダム化は、スクリーニング時の血清IL-6レベル(<10または≥10pg/ mL)によって層別化された。これはphase2 studyのデータの分析において、IL-6レベルが低いとmRSSのベースラインからの変化に良い結果が出たからである。

 

Procedures:mRSSとFVCは、baselineと8、16、24、36、および48週目に評価された。primary objectiveは48週目のmRSSであり、48週目の肺機能はsecondary objectiveであた。 HAQ-DIは、ベースラインと8、16、24、36、および48週目に評価された。Patient’s and physician’s global assessments、SHAQ、SGRQ、FACIT-fatigueは、ベースラインと8、16、24、および48週目に評価された。
DLCOは各病院・研究所の機器を使用して測定されました。HRCTはすべての参加者に対してベースラインと48週目に施行された。
免疫調節薬は%FVC予測値の低下があった患者は16週目から、また皮膚肥厚や他の全身性硬化症による合併症が悪化した患者については24週目から投薬を追加出来ることとした。

 

Outcomes

Primary endpoint:mRSSのベースラインから48週までの変化

Secondary endpoint

・FVC%予測値のベースラインから48週までの分布の変化

・mRSSが(≥20%、≥40%、および≥60%)改善した患者の割合の違い

・治療失敗までの期間(治療開始から死亡までの時間、FVC%予測値> 10%の低下、mRSSの相対的増加が> 20%、およびmRSSの増加が5ポイント以上、または全身性硬化症に関連する重篤な合併症の発生 と定義)

・健康評価質問票-障害指数

・patient global assessment and physician global assessment

Exploratory endpoint

・FVC実測値・FVC%予測値が10%以上低下した患者の割合

・24週目のFVCの変化、DLCOの変化

・48週目でDLCOが少なくとも15%減少している患者の割合

・48週目のHRCTで最も障害されている肺葉の線維化の程度(QLF-LM)のベースラインからの変化

・the American College of Rheumatology Composite Response Index in Systemic Sclerosis(ACR-CRISS)

・ベースラインで全身性硬化症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)をもつ患者には追加分析が行われた

・全身性硬化症の診断アルゴリズムを用いて、SSc-ILDをすりガラス状陰影、または肺底部優位の肺線維症、あるいはその両方の存在と定義した。

・QLF-WL/QILD-WLは事後分析された。

*QLF-LM:HRCT of quantitative lung fibrosis -most affected lobe

*QLF-WL:HRCT of quantitative lung fibrosis -whole lung

*QILD-WL:HRCT of quantitative linterstitial lung  disease-whole lung

 

Results

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trail profile

2015年11月20日~2017年2月14日までの間に343人をスクリーニングし、そのうち131人(38%)が不適格だった。 したがって212人が採用され、ランダムに割り当てられた。107人は毎週皮下プラセボを投与され、105人はTCZ:162mgを投与された。
プラセボ群の参加者107人中93人(87%)およびTCZ群の参加者105人中95人(90%)が48週間の評価を完了した(Figure.1) 。

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参加者のほとんどは女性、罹病期間の中央値は2年未満であり、皮膚病変は中等度から重度、ベースラインの平均mRSSはプラセボ群で20.4、TCZ群で20.3だった。210人の参加者のうち136人(65%)にHRCTでSSc-ILDを認めた。

48週目までにプラセボ群の22/106人(21%)、およびTCZ群の9/104人(9%)で免疫調整療法が開始された。プラセボ群の14/22人(64%)、TCZ群の4/9人(44%)は、36週以降に免疫調節療法を開始されていた。

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TCZ群とプラセボ群のmRSSのベースラインから48週目の変化というprimary endpointは満たされなかったが、TCZで治療された患者は48週目に皮膚硬化症が数値的に大幅に減少した。mRSSのベースラインから48週までのLSM(the least square mean)の変化は、プラセボ群で–4.4、TCZ群で–6.1だった。

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FVC%予測値のベースラインから48週目のLSMの変化は、プラセボ群で–4.6、TCZ群で–0.4であり(figure 3C, table 3)、似たような変化が絶対的LSMの変化でも見られた(table 3)。

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治療失敗までの時間を分析したKaplan-Meire分析(key secondary endpoint)は、未調整ではTCZ群がプラセボ群より良い成績であったが(ハザード比0・58、95%CI 0・34–0・98)、baselineに合わせて調整した場合、この所見は再現されなかった(HR 0・63、95%CI 0・37–1・06; nominal p = 0・08、figure4)。

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48週間の追跡期間中、ほとんどの患者に少なくとも1つの有害事象が発生した(Table 4)。
プラセボ群の53/106人中(50%)、TCZ群の参加者54/104人中54 (52%)が感染症を発症し、最も多い有害事象であった。TCZ群の13/104人(13%)で14個の、プラセボ群の18/106人(17%)で30個の重篤な有害事象が報告された。

QLF-LM、およびQLF-WLとQILD-WLの事後分析では、TCZ群の肺線維症の数値的改善を示した(table3、figure3D )。また SSc-ILD患者のうちプラセボ群の14/56人(25%)、およびTCZ群の5/59人のうち(9%)が48週目までに少なくとも10%のFVCの絶対的な低下を示した(figure3B)。

 

Disucussion:primary endpointであるmRSSの改善は今回の研究では達成できなかった(TCZ群とプラセボ群で48週間後の皮膚の厚さに差がなかった)。ただしsecondary endpointであるFVCの変化に関して言うと、第2相faSScinate試験の結果と同様に、TCZ群の肺機能の安定化を示唆していた。HRCTの結果は画像上明らかな肺線維症におけるTCZの抗線維化効果を裏付けている。

進行の推定予測因子には、びまん性皮膚硬化型、抗Scl-70(抗トポイソメラーゼ)抗体陽性、急性期反応物質上昇、および民族性が含まれる。

FVC%のベースラインからの変化の分布におけるシフト(figure3 A,B)が、プラセボよりもTCZで治療された参加者で少なくとも10%減少したという結果は、トシリズマブが肺機能を維持する可能性があることを示唆している。

第2相faSScinate試験でのTCZ群とプラセボ群のFVCの差は120 mL、第3相focuSSced試験で167 mLだった。

focuSSced試験の参加者は、皮膚病変の悪化と急性期反応物の上昇を理由に選ばれた。したがって、ほとんどの人の間質性肺疾患は軽度~中等度であった。

QLF-LMの変化は、強皮症性肺疾患の研究でシクロホスファミドを用いた際に報告された–2・6%と比較して、今回の研究でのTCZ治療では1・4%だった。

 

focuSSced試験には長所と短所がある。

mRSSの変化はTCZ群とプラセボ群で1.7単位の違いが観察されたが、治療効果だけでなく全身性硬化症の不均一性やプラセボ効果を反映している可能性があり、統計的な有意差もつかなかった。secondary endpointはFVCも含めて、統計学的な有意差は認めなかった。

ただしFVCへの影響は、臨床的に意味のある影響を示しており、今後のさらなる調査が必要となる。

 

(*全訳ではありません。)

有効性がある可能性は示したものの、有意差を持って上回るような結果は出ませんでした。今後積極的に使っていこうと思えるような結果ではありませんが、患者さんによってはかなりのスピードで間質性肺炎や皮膚硬化が進行する方も居ますので、これまでに報告されている他の治療が有効でない場合、検討してもいいのかもしれません。