リウマチ膠原病 論文抄読会

リウマチ膠原病に関する論文を読んでいきます。主に知識量up目的です。初学者ですので間違いがありましたらコメントで教えて頂けると有難いです。

2021 ACR guideline GCA/TAK -TAKのガイドラインの要点-

前回の続きです。今回はTAKのガイドラインについて見ていきたいのですが、その前に高安動脈炎/巨細胞性動脈炎に対するトシリズマブの有効性および安全性を検証したGiACTA study、TAKT studyに関して簡単に振り返ります。

 

○GiACTA study

・対象:50歳以上で、ベースライン時の6週以内に巨細胞性動脈炎の疾患活動性を認める新規発症または再発患者。(n=251)

・結果

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主要評価項目は1年経過時点で持続的寛解を達成する患者の割合。統計学的に有意に増加しており、主要評価項目を達成した。

また副次的評価項目においても6ヶ月間のステロイド漸減投与下におけるTCZ投与群では、1年経過時点で持続的寛解を達成する患者の割合を統計学的に有意に増加させた。

したがって、巨細胞性動脈炎患者に対するTCZ投与により、プラセボ群に比べ副腎皮質ステロイドを減量させ、症状の寛解を維持出来ることが示された。

 

○TAKT study

・対象:副腎皮質ステロイド0.2mg/kg/day以上による治療にも関わらず高安動脈炎の再発を認める患者。(n=36)

・結果

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主要評価項目である高安動脈炎の再発までの期間において、プラセボに対する有意な差は認められなかったものの、再発のリスク(ハザード比)を下げることが示唆された。

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GiACTA study、TAKT studyではrecruitした患者層や患者数も大きく違います。

TAKT studyは原著論文のlimitationに記載がある通り、nが少なすぎてprimary endpointを達成できていません。それを踏まえて2021 ACR guidelineのTAKの項目を見ていきます。

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2021 ACR guideline for management of  TAK

画像

 

①活動性のあるTAKの患者には、TCZよりも他の非ステロイド性免疫抑制薬の使用を条件付きで推奨する。 level of evidence:very low~low

・・・MTX、TNF-I、およびAZAなどの免疫抑制剤は、これまで通りTAKの初期治療として使用することができる。現時点ではTAKにおけるTCZの有効性が確立されていないため、初期治療にはTCZよりもこれらの薬剤を勧める。TCZは、GCAのために有効であることが示されているが、TAKにおいてはprimary endpointを達成していない。そのため他の免疫抑制療法に対する反応が不十分な患者に考慮される場合がある。ABTは推奨しない。

 

ステロイド単剤での治療に抵抗性のあるTAKの患者には、TCZの追加よりもTNF-Iの追加を条件付きで推奨する。 level of evidence:low

・・・TCZと比較してTNF-Iに関する臨床経験とデータが多いため、TCZよりもTNF-Iを支持した。TAKにおけるTCZの臨床経験は、ランダム化比較試験と小規模な研究で実証されている。TCZ群で寛解維持期間が長くなる傾向が見られたが、その差は統計的に有意ではなかった。またTCZの使用はCRPにも影響を及ぼし、疾患活動性の測定に影響を与える可能性がある。したがってTNF-Iの使用を支持することとしたが、禁忌である場合はTCZも考慮される

 

③既知の血管病変が無症候性の進行していることが画像検査で明らかになった場合は、免疫抑制療法の強化/変更よりも現在の療法を継続することを条件付きで推奨する。  level of evidence:very low 

・・・血管病変は活動性疾患とは関係のない多くの要因により進行する可能性がある(ex:治癒後の線維化など)。側副血行路は時間の経過とともに頻繁に発生するため、介入は必ずしも必要ではない。ただし血管の病変の場所と範囲を考慮する必要があり、寛解期の後に重大な病変が急速に(週~月単位で)進展している場合は免疫抑制療法の強化が求められる。

 

④活動性のTAKがあり、頭蓋または椎骨脳底動脈に異常がある患者には、条件付きでアスピリンまたは別の抗血小板療法を追加することを推奨するlevel of evidence:low

・・・小規模な観察研究ではあるが、抗血小板療法により虚血性イベントのリスクは低下するが、出血のリスクは上昇することが示唆されている。したがって、抗血小板療法は虚血性イベントのリスクが高い患者(例えば、血流を制限する椎骨脳底動脈疾患またはステントを有する患者)に推奨される。

 

明らかな臨床的寛解はあるが炎症マーカーのレベルが上昇しているTAKの患者には、免疫抑制療法を段階的に行わずに臨床観察を条件付きで推奨します。       level of evidence:very low

・・・炎症マーカーのレベルの増加は非特異的である可能性があり、炎症マーカーの増加のみの設定で免疫抑制療法を強化することは必ずしも必要ではない。疾患活動性の増悪が危惧される場合は頻回な臨床的・画像的検査を行うことを考慮する。

 

①~⑤は便宜上のもので、実際のガイドラインとは関係ありません。

 

上記の通りACRガイドラインではTNF-I>TNFとなってしまいました。TAKにおける肉芽腫形成にはTNF-αの関与が示唆されているため、これまでそれぞれ小規模なTNF-α阻害薬での臨床試験が行われ、初期成績は比較的良好であったことが示されています。しかし最近の報告ではTNF-α阻害薬は難治性のTAK患者において一旦は寛解するものの、3割以上で再発が見られたという報告もあります。

製薬会社主導の試験である程度良い成績を残せたものの、primary endpointを達成できなかった(そもそもnが少なすぎる)TCZよりは、結論が明らかでないTNF-Iといったところでしょうか。

TCZによる大規模な臨床試験が待たれます。なお前回記載したとおりTAKは主に形質細胞やB細胞系の関与を伴う疾患であるとされているため、ABTは推奨されていません。