リウマチ膠原病 論文抄読会

リウマチ膠原病に関する論文を読んでいきます。主に知識量up目的です。初学者ですので間違いがありましたらコメントで教えて頂けると有難いです。

Risk of Gastrointestinal Perforation Among Rheumatoid Arthritis Patients 関節リウマチ治療による消化管穿孔について

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Brief Report: Risk of Gastrointestinal Perforation Among Rheumatoid Arthritis Patients Receiving Tofacitinib, Tocilizumab, or Other Biologic Treatments - Xie - 2016 - Arthritis & Rheumatology - Wiley Online Library 

ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY Vol. 68, No. 11, November 2016, pp 2612–2617

 

IL-6受容体阻害薬使用中における憩室出血・腸管穿孔のリスクに関しては皆様ご存じの通りと思います。TCZの添付文書には副作用の項目に腸管穿孔(0.2%)、慎重投与の項目に憩室出血のある患者、と記載があります。SARは副作用の項目に腸管穿孔(頻度不明)、慎重投与の項目に憩室出血のある患者、と記載されており両者ほぼ同様の記載となっています。
一度憩室出血や腸管穿孔を起こした患者に再投与が可能かどうかについては調べた限りコンセンサスはないようです。私見ではIL-6受容体拮抗薬はTNF阻害薬に比べて高齢者に投与される事が多く、高齢者はそもそも若年者と比較して憩室出血のリスクが高いことから、どれほどIL-6阻害薬がリスク因子となっているの疑問が残るところです。
調べてもあまりはっきりしたことは分かりませんでしたが、参考になりそうな論文を見つけたので読んでみることにしました。

 

Introduction:

消化管穿孔は稀だが重篤な有害事象であり、RA患者では特にリスクが高いと報告されている。RA患者はNSAIDsの使用に関連する上部消化管穿孔を最も頻繁に経験する。最近では、IL-6受容体拮抗薬であるtocilizumab(TCZ)により下部消化管穿孔が引き起こされると報告されている。

最近、tofacitinib(TOF)を含むJAK阻害薬がRAで使用され始めている。 JAK-1、JAK-2、JAK-3、またはTYK-2のpathwayを考慮すると、IL-6シグナル伝達に何らかの効果があり、消化管穿孔のリスクが高まる可能性がある。 TCZまたはTOFに関連する消化管穿孔のリスクに関する実際のevidenceは限られている。 そのため、実際のデータを使用して消化管穿孔のリスク要因を(特に下部消化管穿孔を中心に)調査した。

 

Patients and Methods

Data source and cohort eligibility:
患者は18歳以上であり、2人以上の医師によりRAと診断される必要があった。
また、試験に参加する以前に6か月以上RAの治療として、TOFあるいは生物学的製剤の投与を受けていなければならなかった。

利用可能であった全てのデータを参照して(最低6か月)、以前に消化管穿孔を起こした患者は除外された。炎症性腸疾患と診断された患者、非悪性黒色腫以外のがんと診断された患者は除外された。

 

exposure:

TOF、TCZ、およびABT、ADA、CZP、ETN、GLM、IFX、RTXなど、RA治療のために用いられている生物学的製剤に曝露されている患者に関して研究した。 TNF阻害薬(ADA、CZP、ETN、GLM、およびIFX)を対照群として使用した。 患者はそれぞれの薬剤の典型的な投与間隔(IFX:56日、TCZ/ABT:30日、RTX:183日)に加えて90日経過していれば、現在曝露されている状態と判断された。

 

Outcome:

Primary outcomeは入院を伴う消化管穿孔だった。また、消化管穿孔のために死亡退院した患者、退院後90日以内に死亡した患者についても調べた。感度分析を実施して、憩室炎、憩室症、または虚血性大腸炎の診断コードを含む患者についても調べた(ただし、「穿孔」は必ずしも言及されていなかった)。

 

Covariates:

併存疾患には、糖尿病、消化性潰瘍、胃食道逆流症、憩室炎、およびその他の消化管疾患が含まれていた。

これらの状態は、baseline期間中に記録されたICD-9診断コードを使用して評価された。

baseline 期間中に使用されたRAの治療と無関係な薬剤は、National Drug Codes(NDC)を使用して特定された。生物学的製剤の使用についてはNDCとHealthcare Common Procedure Coding System codesを使用して特定された。

 

Results

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選択基準を満たした190,061人のRA患者を特定した。1,163人(0.6%)は、消化管穿孔の既往歴があったため分析から除外された。さらに21,785人(11.5%)は、炎症性腸疾患の病歴、非黒色腫皮以外の皮膚がんを含む悪性腫瘍の診断、18歳未満、またはRAの治療に適応ではないDMARDs使用のため除外された。

Medicareに登録された患者の年齢の平均±標準偏差は63.7±12.6歳、MarketScanに登録された患者は52.2 ±12.6歳だった。分析に含まれた167,113人のRA患者の特徴を、投与された薬剤別に表1に示す。TNF-Iで治療された患者と比較して、ABTで治療された患者はやや高齢で、TOFとRTXで治療された患者はやや若かった。TCZで治療を受けた患者の年齢は近似していた。

憩室炎などの消化管併存疾患の有病率は低く(2%)、どの群でも類似していた。TNF-I以外の薬剤で治療された患者は、以前に生物学的製剤を使用した割合が高かった。

ABT、RTX、およびTCZで治療された患者は、TNF-Iで治療された患者よりもNSAIDsを投与された割合が低かった。RTXとTCZで治療された患者は、TNF-Iで治療された患者と比較して、より高用量の糖質コルチコイドを投与された割合が高かった。

 

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入院を必要とした消化管穿孔はTCZで最も多かった(1000人年あたり1.55:16例)。TNF-I阻害薬では100-人年あたり0.83とTCZよりも少なかった。

消化管穿孔の多くは下部消化管で起きていた(62%)。下部消化管穿孔の発症率はTCZ(81%)でTNF-I(55%)よりも多かった(P=0.04)。

下部消化管穿孔の発症率を降順に並べるとTCZ→TOF→ABT→RTX→TNFとなった。上部消化管穿孔の発症率はすべての群で近似していた。

 

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年齢、性別、糖尿病、消化性潰瘍、胃食道逆流症、憩室炎およびその他の消化管疾患、使用される生物学的薬剤の数、NSAIDs、経口糖質コルチコイド、抗凝固薬、およびPPIに関して多変量解析を行ったところ(Figure.1)では、TCZ使用者で消化管穿孔がリスクが大幅に増加し(HR 2.51 [95%CI 1.31–4.80])、TOF使用者の間で数値的に増加した。(HR 1.94 [95%CI 0.49–7.65])。

Medicareから抽出した患者のうち75人の患者が下部消化管穿孔を発症し、そのうち16人(21.3%)が病院で死亡し、さらに13人(17.3%)が退院後90日以内に死亡した。MarketScanから抽出した患者のうち31人が下部消化管穿孔を発症し、1人(3.2%)が病院で死亡した。 したがって、106の下部消化管穿孔イベントのうち、30人の患者が病院内または退院後90日以内に死亡し、全体の死亡率は28%(入院中は16%[17/106])だった。

TNF-Iで213件(IR:1.64)、TCZで26件(IR:2.53)のイベントが発生した。

 

Discussion:

生物学的製剤の投与を受けているRA患者を対象にした他の研究結果と同様に、糖質コルチコイド治療が胃腸穿孔の独立した危険因子であることが分かった。生物学的製剤(主にTNF-I)の投与を受けているRA患者の研究では、全身性糖質コルチコイドを服用している患者(1,000人年あたり1.12)は、全身性糖質コルチコイドを服用していない患者(1,000人年あたり0.47)よりも消化管穿孔率が高かった。

薬剤関連の上部消化管合併症の発生率は少なくともNSAIDsに関してはよく知られているが、下部消化管穿孔のリスクについては、薬剤の関与の可能性が示されているにも関わらずあまり知られていない。 DMARDsおよび生物学的製剤が消化管の穿孔を惹起するメカニズムには、宿主防御能や血管内皮増殖因子への影響が考えられている。

 

Limitation:

RAの重症度や罹病期間、市販のNSAIDsの使用などデータから測定できない要因が転帰に関与している可能性がある。

TCZ/TOFが消化管穿孔に関与している可能性があると知られていることを考慮すると、消化管穿孔のリスク高い患者は、TCZ/TOFが処方される可能性が低いため、結果に影響を与えた可能性がある。

 

Conclusion:

結論として、TNFiを投与されている患者と比較して、TCZ使用患者の下部消化管穿孔のリスクは2倍以上高いことが分かった。

 

この論文ではTCZ/TOFで消化管穿孔のリスクが高いという結果が出ました。(2016年の論文ということもありTOF群の患者のn数が少ないのが気になりますが) Limitationに記載した通り、後ろ向き研究なので交絡因子が関与する可能性は否めません。
TOFでリスクが上がるのはJAK1/JAK2/TyK2の阻害によりIL-6が抑制されるからなのでしょうか。最近はやりのJAK1選択阻害薬であればリスクは上がらないのでしょうか。