2021 ACR guideline GCA/TAK -GCAのガイドラインの要点-
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/art.41774
ACRから新しくGCA/TKAのガイドラインが発表されました。現在TAKの診断にはACRによる分類基準(1990年)と日本循環器学会による診療ガイドライン(2008年)が汎用されています。GCAにはACRの分類基準(1990年)が診断に汎用され、厚生労働省の認定基準にも採用されています。1990年にACRの分類基準が作成された時代から疾患概念が変化しており、新たなガイドラインの発表が待たれていました。どちらも有用なバイオマーカーがなく治療効果を判定しづらい疾患であり、大規模な臨床試験がデザインしづらいかとは思います。recommendationの大半のlevel of evidenceはvery low~lowとなっています。いくつか気になったポイントを挙げる前に、巨細胞性動脈炎(GCA)・高安動脈炎(TAK)について整理してみます。
・巨細胞性動脈炎(GCA)
○概要:発症年齢は50才以上、ピークは70才代と高齢者に発症する血管炎。PMRの合併率はコホートにより異なるが欧米では約30-50%程度。
○病理組織:内弾性板を貪食する巨細胞の出現を伴う炎症が特徴的であるが、陳旧化すると巨細胞は消失して内弾性板の石灰化が認められることがある。GCAの炎症巣には巨細胞の他にもリンパ球・マクロファージ・樹状細胞などが出現する。GCAに出現するリンパ球の主体はCD4陽性T細胞であり、CD8陽性T細胞は比較的少なく非常に乏しいと報告されている。
・高安動脈炎
○概要:大動脈と大動脈弓部とその他主要分枝や弾性肺動脈に起こる肉芽腫性全層性動脈炎を特徴とする。ほとんどの症例は15-45才の女性に起こる(女性:男性=8:1)。
○病理組織:TAKの大動脈病変はびまん性の病変を形成するが、内膜の線維増生が著しいことと外膜が肥厚していることから伸展性が乏しくなっている。組織学的にステージ分類すると、炎症細胞浸潤による組織破壊が主体の「活動期」と、炎症が治まり破壊された血管壁が線維組織で修復された「瘢痕期」に大別される。血管炎症は外膜から始まり、内層に向かって波及していくのが特徴である。活動期には外膜から中膜に向かって炎症が進行する。それを反映して外膜にはマクロファージやリンパ球、主体の炎症細胞が帯状に集簇している所見がみられる。中膜では多核巨細胞を有する肉芽腫病変が形成された結果として弾性線維束が破壊された所見が認められる。
・巨細胞性動脈炎・高安動脈炎の異同
どちらにも巨細胞が見られるじゃないかと思った方もいるかもしれません。両疾患ともに動脈壁に巨細胞を伴う肉芽腫性病変が認められますが、高安動脈炎では形質細胞浸潤が特徴であることが指摘されているように、B細胞・形質細胞系の関与を伴うとされています。一方で巨細胞性動脈炎ではT細胞浸潤が見られ、病理学的にはこれらの点が異なるようです。
それではガイドラインからいくつかの項目について見ていきましょう。
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2021 ACR guideline for the managemant of GCA
①新たにGCAと診断された患者で頭蓋内血管の虚血症状がない場合はステロイドパルス療法ではなく、高容量経口GCにより治療を開始することを条件付きで推奨する。 level of evidence:very low~low
②新たにGCAと診断された患者で失明の可能性がある場合はステロイドパルス療法により治療を開始することを条件付きで推奨する。
level of evidence:very low
③新たにGCAと診断された患者では中等量ではなく高容量GCにより治療を開始することを条件付きで推奨する。 level of evidence:very low~low
・・・中等量ステロイドによる治療に関する検討は十分とは言えず、現時点では何らかの理由で高容量ステロイドに耐えられない場合や合併症リスクが低い症例に限られる。
④新たにGCAと診断された患者には経口糖質コルチコイド単剤よりもトシリズマブと併用することを条件付きで推奨する。 level of evidence:low~high
・・・GiACTA試験でTCZはGCAにおいてステロイドを減量させ、症状の寛解を維持することが示されたため、今回guidelineに組み込まれました。ただし従来通りMTXやGC単剤療法も初期治療として有効と考えられます。また他の薬剤が有効でない場合、GC+ABTも検討されます(☆)。
⑤GCAに対してGC投与中に脳虚血症状を伴う再発を認めた場合は、GC増量+MTXよりもGC増量+TCZを条件付きで推奨する。
・・・TCZとMTXを比較した研究はないが、TCZによるGC減量効果はMTXと比較して大きいと考えられる。そのためTCZに耐えられない患者においてMTXの投与を考慮する。
*①~⑤の番号は便宜上つけただけで、実際のガイドラインとの関連性はありません。
①、②はこれまでの見解の通りですね。④、⑤に記載のとおりGiACTA試験の結果TCZのGC減量効果が示されたことからTCZがguidelineに記載されました。個人的には大血管炎にABTを使用したことはなく、使用している先生をみたこともありません・・・。病理組織学的にはT細胞浸潤が見られるようですので、その他の薬剤が何らかの理由で使用出来ない場合には検討してみてもいいのかもしれません。
GCAにおいてはTCZが新たにguidelineに記載されましたが、似たような疾患であるTAKではそうはいきませんでした。長くなるのでTAKについては次回記載致します。