リウマチ膠原病 論文抄読会

リウマチ膠原病に関する論文を読んでいきます。主に知識量up目的です。初学者ですので間違いがありましたらコメントで教えて頂けると有難いです。

掌蹠膿疱症の臨床像・診断・治療

掌蹠膿疱症性関節炎の診断・治療

 

 https://www.dovepress.com/diagnosis-screening-and-treatment-of-patients-with-palmoplantar-pustul-peer-reviewed-article-CCID 

 

個人的にPPPは膿疱症性乾癬に合併した関節炎やSAPHO症候群との区別がかなり曖昧です。掌蹠膿疱症に関してまとめられた論文を読んでみました。

○概要

掌蹠膿疱症(PAO)とは手掌・足底に無菌性膿疱が繰り返し出来る、慢性炎症性疾患の難治性皮膚疾患である。胸鎖関節などの関節炎(掌蹠膿疱症性関節炎:PPP)を起こすこともある。

原因はよく分かっていないが、発症原因は明らかになっていないが、角化亢進などによって引き起こされる無菌性膿疱と臨床的には定義されている。

悪化因子としては、病巣感染(齲歯 歯周炎 扁桃炎 副鼻腔炎など)や金属アレルギー、喫煙などがあるといわれている。

乾癬の亜型との考えもあるが、独立した疾患であるとも考えられておりはっきりしない。

 

○疫学

稀な疾患であり有病率は0.01-0.05%と推定されている。日本のデータベースでは65.4%、スウェーデンの研究では94%が女性であったと報告されている。50-60歳代に起こりやすく、平均発症年齢は40-58歳くらいである。

 

掌蹠膿疱症(PPP)と膿疱症性乾癬(PPPP)の違い

1930年初めてBarberが、von Zumbusch 膿疱性乾癬と区別して、PPPを乾癬のサブタイプであり、限局性乾癬であると定義した。しかし今日に至るまでPPPの疾病分類額的な立ち位置は不明であり、尋常性乾癬のスペクトラムとされたり、独立した疾患であると考えられたりしており、議論は未だ進行中である。

(2007年のthe Inernational Psoriasis CounsilではPPPは独立した疾患であると再分類されている。)

 

PPP:通常両側対称性に起こり、病変は手掌や足底に限局する。体の他の部位には起こらないという点でPPPPと区別される。(acrosyringium(:エクリン線の終末管)が炎症の標的である可能性も考えられており、この点でもPPPPと区別出来るかもしれない。)

PPPP:手掌・足底にも病変は起きるが、ほとんどの場合身体の他の領域にも同時に起きる。

 

→したがって、病変が手掌・足底に限局していればPPP、身体の他の領域にも存在する場合や乾癬の家族歴がある場合にPPPPと判断されている。

 

発症年齢、罹病期間、乾癬の家族歴、随伴性関節炎、および心血管疾患に関しての観察研究では、PPPとPPPPの間に有意差は報告されていない。 一方、女性、喫煙、および自己免疫性甲状腺疾患はPPPと関連しているようだ。 事実、喫煙との関連は強く、PPP患者ではニコチンがエクリン腺に分泌されて炎症を促進し、局所反応を変化させると考えられている。

 

○病因

-IL-23/17について-

乾癬と同様に、PPPでも、TNF-α、IL-22、IL-17、IFN-γなどの炎症性サイトカインが増加する。 ただし、乾癬とPPPではサイトカイン産生に違いがある。 乾癬では、Th17リンパ球から分泌されるサイトカイン、たとえばIL-17、IL-12、IL-23が大量に産生されるが、PPPではIL-23およびIL-12の付随的な上昇なしにIL-17が増加する。したがって、PPPではIL-17が重要な役割を果たしている。

表皮でのIL-17の上昇はケラチノサイトからのIL-6産生を誘発し、単球や好中球を活性化し、顆粒球を表皮へ誘引し、膿疱形成を促進する。IL-6は膿疱形成に重要な役割を果たしていると言える。

 

-IL-36について-

IL-36は乾癬の病因に強く関与している。IL-36はPPPにおいて重要な役割を果たすTh-17を発現させる樹状細胞を活性化させることにより、効果を発揮すると考えられている。

Th17細胞によるIL-17産生もIL-36発現を増加させ、フィードバックを作り出す。

 

○症状

PPPは手掌・足底の無菌性膿疱として現れる(手掌・足底の側面に出来ることもある)。慢性的・周期的で、通常は対称的である。

エクリン汗腺が豊富な領域に病変が起きやすいと考えられている。 無菌性膿疱は通常数日以内に乾燥し、落屑と線状の亀裂が観察される。あるケースシリーズでは、病変が手掌のみなのは15.4%、足底のみなのは17.9%で、66.7%が手掌・足底両方に病変を有していた。

病変は通常、かゆみや灼熱感を引き起こし、生活の質に悪影響を及ぼす。

爪病変は約42.1%に存在する可能性がある(乾癬に見られるよりも少ない)。

また、25.6%で骨関節障害を起こすこともある。

 

○誘発因子

喫煙:喫煙は最もよく知られている誘発因子である。PPP患者の喫煙率は高く、現在喫煙している、あるいは過去に喫煙していた患者は42〜100%に上る。 現在喫煙している患者がPPPを発症する相対リスクは、非喫煙者と比較して74倍高い。禁煙後に病変が退縮したという報告も多数存在する。

 

感染:尋常性乾癬の誘発因子としてよく知られている感染症でも、PPPを悪化させる可能性がある。多くの症例報告でPPPと扁桃炎、歯原性感染症、慢性副鼻腔炎との関連が報告されている。 実際に、PPP患者の半数以上で歯科疾患を治療することにより臨床的改善が観察されている。

扁桃腺とPPPの関連が調査され、扁桃摘出術によりPPP患者116人中109人で改善が認められたという報告もある。

 ストレス:PPPを含む特定の皮膚疾患では、心理的要因、特にストレスが、その病因において重要な役割を果たしている可能性がある。PPP患者の約90%でストレスに関連して皮膚病変が悪化したという報告がこれを示唆している。

 

アレルギー:臨床経過の観察に基づくと、接触皮膚炎はPPPで重要な役割を果たす可能性がある。接触皮膚炎は尋常性乾癬と比較して、PPP患者でより有病率が高い(25.2%vs 11%)。 また、PPP患者の中では女性の方が男性よりもパッチテストの陽性率が有意に高いことも示されている。

PPPの接触ア皮膚炎に関する最近の系統的レビューでは、患者の23.3%がパッチテストで陽性であり、金属が最も一般的なアレルギー物質であることが示された。 また、58.3%のケースで、アレルゲンの回避が皮膚の改善を示した。

最も一般的なアレルゲンは、ニッケル、バルサム(樹脂)、ゴム添加剤、水銀、クロムである。したがって治療に反応しないPPP患者にパッチテストを実施することは有用である。

 

薬剤:PPPは主に成人と高齢者に影響を与える病気であり、多くの患者で他の慢性疾患が併存している。症例対照研究では患者の30%がβ-blocker、ACE阻害剤またはCa blocker、30%がホルモン療法、15%が抗うつ薬、13%が糖尿病薬の投薬を受けていた。しかし、これらの薬剤とPPPの間には明確な関連は認められていない。

一方で、生物学的製剤はPPPの原因になり得ると考えられている。 TNF阻害剤(ADA、IFX、ETN)は乾癬の治療に効果的だが、副作用として乾癬病変の形成につながる可能性がある。

 

○併存疾患  Table2

 

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○治療

PPPの治療アプローチには局所療法と全身療法があるが確率された治療法はなく、管理が難しい疾患である。

手掌・足底に存在する角質層は、局所治療薬が作用するにあたって障壁となり得る。

 

局所療法:割愛します

 

-全身療法-

TNF阻害薬: おそらく炎症のメカニズムが違うために、乾癬とPPPではTNF阻害薬(ADA、IFX、ETN)の臨床効果には違いがある。

PPPに対してのTNF阻害剤の効果を評価する唯一の研究は、わずか15人の患者でETNを使用して行われた。 24週目の時点でETN群はプラセボ群に比較して、PPPASIスコアの有意な減少を示しましたが(p=0.038)、研究のエンドポイントであった12週目では差は認められなかった。

非喫煙者のうち3/3人がエタネルセプト療法で臨床的改善を達成し、喫煙継続者の3/7人のみが改善したことを著者が指摘しているように、喫煙が治療効果に大きく影響した可能性がある。

 

IL-12/23 阻害薬(ustekinumab;ステラーラ):

PPP患者では相反する結果がいくつか報告されている。TNF阻害薬で治療されているが効果不十分な場合に、効果があるかもしれない。

Bissonnette らは、PPP患者を対象としたustekinumab 45 mgとプラセボを比較する前向き無作為化対照試験を実施したが、統計学的な有意差は認めなかった。

別の研究によれば、Au らは、ustekinumab 90 mg投与の患者で45 mgと比較してより高い有効性を示した。ustekinumab 90 mg投与を受けた患者の67%(9人の被験者のうち6人)は、45 mgの投与を受けた被験者の9%(11人のうちの1人)に対して臨床的改善を示した(p = 0.02)。

見られる適度な結果は、PPPではIL-17とは対照的に、IL-23の発現が低いことからこの結果を説明出来ると考えられる。

 

IL-17阻害薬:いくつかの研究では、IL-17がPPPの炎症メカニズムで中心的な役割を果たす可能性があると示されている。これは、IL-17阻害薬がTNF阻害薬、および抗IL12 / 23阻害薬よりも効果的な治療選択肢となる可能性があることを意味する。

IL-17阻害薬のうち、Secukinumab(コセンティクス)とBrodalumab(ルミセフ)はPPP患者を対象に研究されている。

2PRECISE試験では、Secukinumab 300 mgおよび150 mgをプラセボと比較した。 52週時点で、Secukinumab300mg群の患者の41.8%がPPPASI-75を達成した。

4人の患者にBrodalumabを投与したケースシリーズでは有効性は認められていない。PPPに対するBrodalumabの有効性に関する第III相プラセボ対照試験が進行中である。

 

IL-23阻害薬(Guselkumab;トレムフィア)

IL-23阻害薬(Guselkumab)

IL-23のp19サブユニットに結合する完全ヒト型モノクローナル抗体であるGuselkumabは、PPP患者を対象に研究が行われている。しかし、16週目にグセルクマブは臨床的有効性を示し、

応答は2週目にのみ開始されました。Teruiらは49人のPPP患者を対象とした二重盲検ランダム化プラセボ対照試験の結果を発表した。Guselkumabを投与した患者では16週目に臨床的改善を示したが、効果は2週目以降に表れたと報告している。

159人の患者を対象としたGuselkumabの安全性と有効性に関する第III相多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果が最近発表された。Guselkumab 100 mgと200 mgを投与すると、16週目におけるPPPASIスコアの大幅な改善を認めた。しかし統計学的に有意差を認めたのは100mg群であった(p <0.001)。PPSIおよびPPPASIスコアの低下は、52週までに100mg群、200 mg群どちらのグループでも観察された。PPPASI-75の改善は52週目で、100 mg群の55.6%、200 mg群の59.6%で認めた。

トレムフィアは現在日本において掌蹠膿疱症に対して保険適応をとっている唯一の生物学的製剤である。

 

PDE-4阻害薬(Apremilast)

Apremilastは乾癬に対する経口の選択的PDE-4阻害薬である。

PDE-4を阻害することにより、IFN-c、TNF-a、IL-12、IL-17、IL-23などの乾癬の病因となるいくつかの炎症性サイトカインの産生をブロックする。フェーズ3 ESTEEM [乾癬におけるアプレミラストの効果を評価する有効性および安全性試験]とその他2つの試験では、乾癬患者で中程度の臨床効果しか示さなかったが、爪乾癬、頭皮乾癬、および掌蹠膿疱症などの治療困難な乾癬のサブタイプで効果を示した。幅広くサイトカインを抑制するため、PPPにも有効な治療選択肢となる可能性がある。

また有害事象は軽微なものが多く、臨床検査でのモニタリングが不要であることも利点であると考えらえる。

2つの後ろ向き研究(合計12例)は、アプレミラストをustekinumab、MTX、またはixekizumabと組み合わせて使用​​し、改善を得たと報告している。

 

結論:PPPは乾癬には存在しない遺伝的、組織病理学的および臨床的特徴を持っている。例えばPSORS1やPSORS2といった複数の遺伝子座が乾癬と関連していると報告されているが、PPP患者には見られない。またIL-36の働きを制御するIL-36受容体アンタゴニストをコードするIL36RN遺伝子の変異や、CARD14遺伝子変異が掌蹠膿疱症患者の治療反応に影響を与える可能性があると考えられている。

ただし、乾癬とPPPはどちらもIFN-γとTNF-αに加えて、IL-17が病因となっている。

多くの治療アプローチが試みられてきたが、ゴールドスタンダードはない。

喫煙を継続している患者では、禁煙を試みるのも一手だろう。軽度であれば局所療法を、中等度~重度のPPPの患者では、光線療法などが有効な場合がある。難治性の患者またはこれらの治療法の使用が禁忌である患者は、新しい治療法を検討するといいだろう。

 

日本では掌蹠膿疱症は乾癬の亜型と考えられているようですね。掌蹠膿疱症の病名では特定疾患の申請はできませんが、膿疱症性乾癬で取得されていることが多いのでしょうか。掌蹠膿疱症、乾癬ともに関節炎を来し得るのですが、この論文を参考にするとIL-17阻害薬が有効なように思われますね。恥ずかしながら甲状腺疾患の合併に関しては知りませんでした。今後留意しておこうと思います。