リウマチ膠原病 論文抄読会

リウマチ膠原病に関する論文を読んでいきます。主に知識量up目的です。初学者ですので間違いがありましたらコメントで教えて頂けると有難いです。

Risk of Adverse Outcomes in Hospitalized Patients with Autoimmune Disease and COVID-19: 自己免疫疾患とCOVID-19

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Risk of Adverse Outcomes in Hospitalized Patients with Autoimmune Disease and COVID-19: A Matched Cohort Study from New York City | The Journal of Rheumatology (jrheum.org)

 

当院のコロナ病床も満床になりました。片田舎ですらこの状況ですので、都市部の先生方の苦労は察するに余りあるものがあります。

個人的には当科(リウマチ膠原病科)の患者さんが特別SARS-COV-2に罹患しやすい印象はないのですが、いかがでしょうか?

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Introduction

2020年1月、SARS-CoV-2が分離され、コロナウイルス感染症2019の原因となる新規病原体が同定された。その後200カ国以上に急速に広がり、無症候性感染から呼吸不全、死亡に至るまで様々な転帰を示している。

これまで自己免疫疾患を有する入院患者における影響に焦点を当てた研究はほとんどなかった。しかし自己免疫疾患を有する患者は、基礎となる免疫機能の調節障害を有しているため、SARS-CoV-2に感染した際の転帰を研究することが必要であると考える。そこで、COVID-19を有する自己免疫疾患患者の入院中の大規模コホートを解析し、症状や挿管、ICU入院、死亡などの臨床的に関連する転帰の違いをさらに評価することを目的とした。

 

Methods

Matched cohort study design

2020年3月1日から2020年4月15日までにNewYork-Presbyterian Hospital/Columbia University Irving Medical Centerに来院した18歳以上の患者を対象にretrospective cohort studyを実施した。解析の対象としたのは、RT-PCRSARS-CoV-2陽性と判定された患者のみとした。炎症性腸疾患や脊椎関節炎などの免疫介在性炎症性疾患(IMID)を含む自己免疫疾患の患者は、国際疾病分類に基づいて同定された。その後患者は自己免疫疾患の有無に基づいて分類された。(supplemental Table1)

 

Primary outcome:死亡、挿管、ICU入室などの有害事象を複合的に評価

Secondary outcome:入院から死亡までの時間

 

Co-variables&Exposures of Interest

収集されたデータには、年齢、性別、人種、および民族性が含まれていた。BMI、喫煙状況、臓器移植歴なども含まれていた。

COVID-19に関連する併存疾患(高血圧、慢性閉塞性肺疾患、喘息、間質性肺疾患、糖尿病、慢性腎臓病、冠動脈疾患、心不全、または活動性悪性腫瘍)が記録された。

Home medicationsは入院前少なくとも1ヶ月間継続していた薬を考慮に入れた。症状、バイタルサイン、検査値、入院中の治療についても、電子カルテから記録を得た。

 

Results

Baseline Characteristics

3月1日から4月15日までの間に病院に入院したCOVID-19の自己免疫疾患患者62名を同定した。自己免疫疾患としては関節リウマチが最も代表的であり16例(25.8%)が入院し、次いでサルコイドーシスが8例(12.9%)であった。

解析対象となった186人の患者のうち、BMIまたは喫煙状況には両群間で大きな違いはなかった(Table1)。自己免疫疾患の患者は白人の割合が多く、自己免疫疾患のない患者では、ヒスパニック系もしくは黒人の割合が多かった(p=0.01)。自己免疫疾患を有する患者は、少なくとも1つの併存疾患を有する可能性が高く、また高血圧の割合が高かった(75.8% vs. 60.5%、p=0.03)。

呼吸器疾患、糖尿病、慢性腎臓病、心臓病、または活動的な悪性腫瘍の罹病率には大きな違いは認めなかった。

自己免疫疾患患者は対照群に比べて、臓器移植歴のある患者の割合が有意に高かった(16.1% vs. 1.6%、p<0.01)。また、対照群と比較して免疫抑制剤の投与を受けている割合が多かった。

副腎皮質ステロイドを服用していた患者の大多数は低用量コルチコステロイドを投与されていた。特筆すべきは、自己免疫疾患の患者は、長期的なヒドロキシクロロキン治療を受けている可能性が高い(11.3% vs. 0.0%、p<0.01)ことであった。

入院時の症状を評価したところ、神経症状、呼吸器症状、消化器症状に有意差は認められなかった。また初期のバイタルサインと 臨床検査値は類似していた(Table 1)。

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コルチコステロイドを投与されている自己免疫疾患の患者の大多数(76.5%)は、外来での投与量を継続して使用していた。その他ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシン、トシリズマブなどの入院中の投与に関しては有意差を認めなかった。

入院期間の中央値は自己免疫疾患の患者で有意に長い訳ではなく(5日vs4日、p=0.22)、観察期間に生存・退院した141例のみを対象とした場合でも、入院期間の中央値は対照群と比較して有意に長くはなかった(7日対5日、p=0.26)

29/186例(15.6%)が死亡したが対照群の自己免疫疾患群では似たような結果であった。挿管率(17.74% vs. 14.2%、p=0.62)、ICU入室率(19.4% vs. 14.2%、p=0.44)、死亡率(14.5%対17.5%、p=0.77)に差はなかった。

 

Univariable and Multivariable Analysis of Composite Outcome (Intubation/ICU/Death)

単変量解析では、COVID-19による入院患者における自己免疫疾患の存在は、気管内挿管、ICU、死亡の複合アウトカムとは関連していなかった(p=0.63、Table2)。同様に、生物学的製剤を含めて長期の免疫抑制を受けている患者でも、adverse outcomeのリスクの増加は認められなかった(25.0%vs23.9% p=0.88)。 adverse outcomeの予測因子には、高齢(p<0.01)および 高血圧(p=0.04)または心血管疾患(p=0.04)が含まれていた。特筆すべきは、入院中のHCQの使用(p=0.02)または副腎皮質ステロイドの新規開始(p=0.04)がadverse outcomeと関連していたことである。

adverse outcomeの発生率が高かった患者では、白血球、プロカルシトニン、CRP、IL-6、D-dimerの中央値の上昇を示したが、リンパ球数は低かった(p<0.01、Table2)。

条件付きロジスティック回帰を用いた多変量解析では 自己免疫疾患は入院患者のadverse outcomeの有意なリスク因子ではなかった。

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Cox Proportional Hazards Assessing Time to Death

Kaplan-Meier解析では、自己免疫疾患患者では死亡までの時間が長くなったが、統計的に有意ではなかった(Log-rank = 0.47、Figure1)。

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Discussion

この研究では、COVID-19で入院した自己免疫疾患患者は、症状、バイタルサイン、検査値、入院期間が対照群とほぼ同様であったことが明らかになった。さらに、自己免疫疾患はadverse outcomeのリスクを増加させず、死亡のハザード比を増加させなかった。

現在、COVID-19の治療法として免疫抑制が使用されているが、免疫抑制薬を受けている患者の転帰に関するデータはまだ乏しい。

慢性免疫抑制を受けている90人の固形臓器移植患者を対象としたPereiraら最近の研究では、COVID-19を発症した移植患者は全体的に重篤な疾患経過をたどっていることが明らかになっている。

今回の研究では、外来でのコルチコステロイドの使用は有害な転帰とは関連していないことがわかった。さらに生物学的製剤を使用している患者のみを調査した別の研究でも同様の結果が得られている。

疾患転帰を評価する場合、最近の報告では相反するものがあり、いくつかの研究ではCOVID-19で入院したリウマチ性疾患患者で呼吸不全のリスクが高いことが指摘されているが、ほとんどの研究では全死亡率の増加は観察されていない。

 

Limitations

広範囲の自己免疫疾患を含めたが、COVID-19で入院した自己免疫疾患患者の数が限られていたため、各疾患による層別分析を行うことができなかった。さらに、多くの患者で電子カルテに人種/民族が記載されていなかったため、この変数を正確に一致させることができなかった。また、これは単一施設の研究であるため結果の一般化を制限する可能性がある。

これは、自己免疫疾患とCOVID-19の臨床転帰との関連を検討した、これまでで最大規模の入院コホートの1つである。特に強みは、この研究の実施にmatched cohort designを用いたことである。COVID-19に関連する転帰だけでなく、年齢と性別が多くの自己免疫疾患の発症に重要な役割を果たすことを考えると、matched cohort designはバイアスを低減する。

 

*Tableは1つ1つがかなり大きいため一部を抜粋しています。全体像は原著を参照して頂けますと幸いです。

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冒頭にも記載しました通り、当科通院中の患者さんでCOVID-19に罹患された方は多くありません。これまでの研究結果の報告を見ても、罹患率が特別高い印象はありません。新型コロナウイルス感染症診療の手引き ver4.1(2021/1/16現在最新版)

(診療の手引き4.1) (mhlw.go.jp)

でもステロイドや生物学的製剤の使用は重症化のリスク因子として評価中となっており、明確な結論は出ていないようです。もともと感染症に対する予防意識が高い患者さんが多いことが影響しているのかと考えていましたが、ユニバーサルマスクなど感染症予防が広く普及している状況を考えると、予防意識の高さはあまり関係ないのでしょうか。