リウマチ膠原病 論文抄読会

リウマチ膠原病に関する論文を読んでいきます。主に知識量up目的です。初学者ですので間違いがありましたらコメントで教えて頂けると有難いです。

HTLV-1陽性関節リウマチ患者の治療について

HTLV-1は、1980年にGallo R.博士らにより単離・報告された初めての病原性レトロウイルスです。全国のHTLV-1キャリアの実態は1990年に120万人前後と推定されていましたが、それ以降調査はなされておらず、現在の実態は不明です。

国立感染研急所のHPに概要がまとめられています。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/325-htlv-1-gintro.html

 

HTLV-1キャリアがATLを発症するリスクは男性で6-7%、女性で2-3%と言われているようです。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30938551/)

 

キャリアの人数は決して少なくないことから、日常臨床でHTLV-1陽性患者さんの関節リウマチ治療にあたることがあるのですが、生物学的製剤の選択や臓器合併症の評価に悩むこともしばしばあります。HTLV-1陽性関節リウマチ患者診療の手引き(Q&A)というものがありますが、2018年に更新された第2版でも、「HTLV-1感染を理由に使用できない薬剤はありません」という文言は変わっていません。(P19)

https://www.ryumachi-jp.com/pdf/HTLV-1.pdf

 

しかし以前血液内科の先生に相談したところ、IL-6阻害薬でぶどう膜炎やATLが増悪した報告があるので、IL-6阻害薬は避けたほうがいいかもしれないというアドバイスを頂きました。Pubmedで調べてみると以下のような報告があります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5312999/

→HUは寛解しており、HAM/TSPはコントロール出来ている状態であった66歳の女性がRAを発症したためtocilizumabを投与したところ、HU・HAM/TSPの病勢が増悪した。tocilizumabは中止しabataceptに変更したが、HU・HAM/TSPの病勢は改善せず、PSL増量による治療を要したという報告です。

他にもいくつかIL-6阻害薬が関与したかもしれないという報告が散見されます。

 

やはりIL-6阻害薬はHUやHAMなどHTLV-1関連の病態を悪化させたり、発症のリスク因子となるのでしょうか。

2020/6のPNASに熊本大学病院感染免疫診療部の先生方が以下のような論文を発表しています。

https://www.pnas.org/content/117/24/13740

(ニュースサイトで簡略化して説明されています)

(http://www.qlifepro.com/news/20200604/htlv-1-atl.html)

→炎症性サイトカインであるIL-6が炎症を介して発がんを促進することが知られているため、研究を始めた当初はHBZ-TgおよびATLにおいてもIL-6が発がんを促進している可能性を検討されました。しかしIL-6を産生できないHBZ-Tgマウス(HBZ-Tg/IL-6ノックアウトマウス)を作成し解析を行ったところ、炎症とリンパ腫の有意な増加を認め、IL-6はHBZの病原性に対しては抑制する作用を持っていることが判明したということです。

 

Il-6阻害薬だけでなくTNF阻害薬やabataceptでRAを治療中にATLを発症したという報告もありました。HTLV-1陽性細胞はCD4陽性T細胞に感染するため、T細胞活性化抑制に働くabataceptはリスクが低いかと考えていたのですが、そう単純な話ではないですよね。

いずれの報告でも自然経過でATLを発症したのか、免疫抑制治療の結果発症したのか区別することはできませんが、熊本大学からの報告を参考にするとIL-6阻害薬は避けたほうがいいのかもしれません。

 

これまでHTLV-1とRAに関して報告された論文の系統的レビューがあります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7025999/

open accessですので、ご覧ください。